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大阪地方裁判所 平成2年(わ)2204号 判決

主文

被告人を懲役四年六月に処する。

未決勾留日数中五〇〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  法定の除外事由がないのに、平成二年二月八日ころ、大阪府堺市〈番地略〉の自宅において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約0.045グラムを嚥下し、もって覚せい剤を使用した。

第二  清橋ことA、B、Cと共謀のうえ、同年三月一二日午前四時すぎころ、三重県名張市〈番地略〉所在の株式会社オークワ西原店において、同社代表取締役社長P管理にかかる現金約二六五二万七五七二円及び商品券四〇四枚など四五七点(時価合計約二一万二〇〇〇円相当)在中の耐火金庫二台(時価合計約二〇万円相当)を窃取した。

第三  法定の除外事由がないのに、同年六月二五日ころ、大阪市〈番地略〉一階便所内において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約0.045グラムを水に溶かして自己の身体に注射し、もって覚せい剤を使用した

ものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、判示第一の事実について、被告人を警察署まで同行するに際し、警察官による暴行、脅迫があり、本件採尿手続においても被告人の道交法違反事件を立件しない等の取引をするなど利益誘導があったこと、判示第三の事実についても強制力を伴なう違法な任意同行があったもので、右各行為に引き続きなされた各採尿手続により得られた尿の鑑定書等の証拠はいずれも違法収集証拠として排除されるべきであり、被告人は無罪である旨主張するので以下これらの点について検討する。

二  判示第一の事実について

1  前記関係各証拠、司法警察員作成の逮捕状請求書、司法警察員作成の逮捕状請求書謄本及び警部補作成の事件引継書によれば、以下の事実が認められる。

(一) 平成二年二月一〇日午後七時四〇分ころ、大阪府警警ら部第二方面機動警ら隊所属のD巡査部長(以下、Dという)とE巡査(以下、Eという)は、パトカーで警ら中(Dが運転、Eが助手席に乗車)、大阪市西成区〈番地略〉付近の通称三角公園東側路上で、被告人運転の白色の普通乗用車とすれ違ったが、その際、被告人がDらの方を見て視線をそらすように見受けられたので、Dらは不審に思い、パトカーを方向転換させたところ、付近道路は通行人が多いのにかかわらず被告人車は急にスピードを上げて走行したので、パトカーは赤色灯を回して被告人車を追跡した。

(二) 被告人車は、時速約四〇キロメートルで前記道路を北上し、赤信号を無視して交差点を左折進行したので、パトカーはサイレンを鳴らし、マイクで止まるよう指示したが、被告人車は逃走を続け、Dらは、同区花園北一丁目付近で被告人車を見失うに至った。他方、被告人車は、逃走を続け、同区〈番地略〉F宅前路上で、同所に駐車中の右F所有の車両と接触し、更に、同番四号明和荘東側路上に駐車中の単車にぶつかり、同区〈番地略〉先路上に停車し、被告人と助手席に乗っていた男は同車から降りて、同番二四号○○マンションに入った。

(三) D及びEは、被告人車を見失った後、通行人が「あっち、あっち。」と言ったことから、その指示する方向にパトカーを走行させたが、道路の幅員が狭くなってきたため、前記F宅付近にパトカーを止め、パトカーから降車したところ、付近住民が「白い車が当て逃げをして奥の方へ走って行った。」と言うので、そちらの方向へ行くと、軽四輪車両と単車が破損しているのを発見した。

(四) その後Dは、付近で被告人らを捜索していたところ、被告人らが前記○○マンション裏口から出てくるのを見つけ、同区〈番地略〉G方付近で被告人に追いつき、右手で被告人の襟首を掴み、左手で被告人の左腕を後ろ手に捻じり上げ、前記パトカーまで連行した。

(五) 右パトカー付近には、E、応援に来たH巡査長、I巡査がいたが、Dは、パトカー前で被告人から手を離し、Eが、被告人の背中を押して、「乗れ。」と言うと、被告人は「何で乗らないかんねや。」と言いながら、ふてくされた態度でパトカー後部座席中央に乗り込み、Eが運転席に、応援の警察官二人が被告人の両側に乗った。

(六) 被告人は、パトカー内で、警察官から免許証の提示を求められ、黙っていると、両脇の警察官から肘で小突かれ、靴を踏まれたりして、所持していた鞄を見せるよう要求され、なおも返事をしなかったところ、鞄を取り上げられて免許証を取り出され、Eがその場で犯歴照会をしたが、犯歴は見当らなかった。(E及びIは、当公判廷において、パトカー内で被告人は素直に免許証を見せ、求めに応じて腕をまくり上げて注射痕を見せた旨供述する。他方、被告人は、公判でこれを否定し、前記認定のとおり供述しており、前記証拠によれば、被告人はパトカー乗車後も自分の車の鍵をパトカーのシートに隠したり、あるいは金が無くなったと言いだし、警察官と口論するなど警察官に反抗的な態度をとっていたことが認められ、この段階で被告人が素直に警察官の指示に従ったというのは不自然であり、EおよびIの前記供述はいずも信用することができず、右のとおり認定することとする。)

(七) ついで、警察官は被告人に被告人車の車内検索をしたいと要求したところ、被告人がこれを拒絶しなかったことから同車の車内を検索したが不審物は発見されず、同日午後九時ころ、被告人はパトカーで西成警察署へ連行され、被告人車はDが運転して同署へ運んだ。

(八) 同署到着後被告人は、交通事故係の部屋で取り調べを受けたが、被告人の所持品から甲'という名前が出たことから、被告人が、旧姓甲'であることが判明し、「甲'」の氏名で犯歴照会したところ、覚せい剤関係の前科が多数あることが判明した。

(九) その後、被告人は、被告人車の捜索に立会い、その際に、Dが、被告人に採尿に応じるよう求めたが、被告人はこれを拒否し、「以前、堺南署で尿を出したが、その際警察官とのあいだで、尿から覚せい剤が検出されても五月の連休明けまで覚せい剤の逮捕状の執行を待ってもらう旨約束をしており、堺南より先にここで尿を出して逮捕されるわけにはいかないので尿は出せない。」と言ったところ、Dは、「今日の信号無視やスピード違反はパトカーの権限だから見逃してやる。今回尿から覚せい剤が出ても逮捕状の執行は五月の連休後まで待ってやるので尿を出せ。」と被告人を説得し、その結果、被告人は採尿に同意した。なおこの点について、D、Eは、公判廷において、「被告人は、警察署に来てからはおとなしく、素直に採尿に応じており、尿を出すにあたり、被告人に対し、交通事件を見逃してやるとか、逮捕状の執行時期を五月まで待ってやるとか話したことは全くなく、堺南で採尿された話は、被告人が尿を提出した後に初めて被告人から出たもので、その点をEが堺南署に電話したが担当者不在のため確認できなかった。また、当て逃げについては既に事故係が立件しており、覚せい剤についても防犯で取り扱っているので、外勤の者が処分や逮捕の執行時期について口出しできない。スピード違反や赤信号無視については立件が困難なため立件しなかった。」旨供述するが以下の点に照らし、該部分は信用できない。すなわち前記関係証拠によれば、本件被告人の尿は二月一三日に西成署長から大阪府警本部科学捜査研究所に鑑定嘱託され、同月一四日尿中から覚せい剤が検出された旨の鑑定書が作成されているにもかかわらず、本件事件は三月七日に西成署から旭署に事件引継がなされ、六月一九日に至ってはじめて逮捕状の請求がなされていること、本件交通事犯については実際に立件された形跡もないこと、更に、被告人が西成警察署に来てから採尿までに二時間以上経過しており、被告人の説得に時間がかかったことを推認できること、西成署における採尿に至るまでの経緯についての被告人の供述は極めて具体的であり、とくに不自然な点は見受けられないことなどを考慮すると、被告人の前記認定に副う公判廷での供述を排斥することはできない。

(一〇) その結果、同日午後一一時三五分ころ、被告人は、西成警察署内で尿を任意提出し、その後、鑑定の結果、右尿中よりフェニルメチルアミノプロパンが検出された。

2  そこで、右事実を前提にして、警察官の本件証拠収集(採尿)手続に違法があったか否かについて検討する。

まず、被告人を警察署まで同行した行為について検討するに、前記のとおり、警察官は、逃げる被告人の襟首を掴み、腕を後ろにねじり上げてパトカーまで連行し、被告人をパトカーに乗車させたもので、右行為は実質的に見て逮捕行為に相当するものであり、本件当時における被告人の逃走を防止する必要性、緊急性を考慮しても、右行為は任意同行の許容限度を逸脱した違法なものと言わざるをえない。

また、パトカー車内において、警察官が被告人を小突くなどしたうえ、その意に反して鞄を取り上げた行為も捜索、押収に相当し、令状なくして、これを行ったもので違法なものであるといわざるをえない。

次に、西成警察署において、警察官が、本件被告人の交通事犯を見逃すとか尿中から覚せい剤が検出されたとしても逮捕は五月の連休後まで待つなどという利益を約束して採尿を求めた行為について検討する。

一般に、捜査機関が利益約束をして被疑者に自白を求めた場合、その自白の任意性に疑いが生じる場合があるが、これは主として虚偽の自白を防ぐ(虚偽排除)ためであるところ、本件のように被疑者に尿の提出を求めるような場合には、非供述証拠であるから虚偽排除を考慮する必要はない。そして、利益約束による採尿説得は、もとより適切、相当な捜査方法とは言い難いが、被告人の自由意思を制圧するものではなく、特段違法なものとはみられないものである。

3  以上を前提にして、本件採取にかかる尿の鑑定書等が違法収集証拠として証拠能力が否定されるべきか否かについて検討する。

証拠収集の手続に違法性が認められる場合であっても、その違法手続によって得られた証拠の証拠能力が直ちに否定されるわけではない。その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制という見地から相当でないと認められるときに、その証拠能力は否定されるものというべきである(最高裁昭和五三年九月七日判決・刑集三二巻六号一六七二頁参照)。

これを本件についてみるに前記のとおり、本件捜査の手続には違法な点があり、ことに当初の身体拘束行為と本件採尿との間に一般的な条件関係が存することは否定できないが、他方、本件経緯に照らすと、本件当時、警察官が逃走する被告人を制止し、職務質問等を行う必要性が存在したこと、また、本件当時、被告人を道路交通法違反(赤信号無視)の現行犯として逮捕することも可能な状況にあったこと、本件は、道路交通法違反を端緒とするもので、警察官は、当初の段階で被告人に対し覚せい剤事犯の嫌疑を抱き、同人から採尿する目的で身柄拘束に及んだものではないこと、被告人は、公判において、「自分が尿を出したのは、当初警察官から暴行を受けたからではなく、西成署についてから、逮捕時期や交通事件に関して警察官から利益約束をしてもらったからである。」旨供述しており、当初の身柄拘束やパトカー車内での警察官による暴行後も被告人は右利益約束を受けるまで採尿を拒否していたもので、右身体の拘束に関わる違法行為と採尿との間の因果関係はさほど強くないこと、被告人は、前記利益約束後、採尿手続自体には素直に応じて尿を提出しており、採尿手続自体には強制は存しないこと等の諸事情を考慮すると、本件手続の違法は必ずしも重大であるとは言えず、右手続によって得られた証拠物等を被告人の罪証に供することが、違法な捜査の抑制の見地から相当でないとは認められない。

よって、この点に関する弁護人の前記主張は採用できない。

三  判示第三の事実について

1  前記関係各証拠によれば以下の事実が認められる。

(一) 平成二年六月二五日午前三時前ころ、住居侵入の一一〇番通報があり、警ら中の第二方面機動警ら隊所属のJ巡査部長(以下Jという)が、午前三時五分ころ、大阪市西区〈番地略〉メゾン××一〇〇一号室に赴いたところ、ドアが開け放たれ鍵が壊されており、同室居住者のKが「家に帰ってみると、知らない男女が四、五人いた。」と述べたので、いったん西警察署に同女を同行し、その後、同日四時二〇分ころ、同署のL巡査部長(以下Lという)が、同女、M巡査とともに右メゾン××一〇〇一号室に赴き、同所で同女から事情聴取していた。なおこのときLとMは私服であった。

(二) 他方、被告人は、同日午前二時すぎころ、知人のNから「注射器がほしい。」と電話で頼まれ、同日午前五時ころ、両手に荷物を一杯持って、Nから電話で指示された右一〇〇一号室に赴き、「N君はいますか」と言って同室に入って行った。

(三) そのとき、同室内では、前記のとおり、LらがKから事情聴取中であったが、Kは「被告人もNも知らない。」旨言い、Lは、被告人が住居侵入事件と関係があるのではないかと考え、被告人に現場の状況や自分が警察官である旨を話したところ、被告人は、Lに対し、「みよしせいじ」と偽名を名乗ったものの、住所は答えず、「関係ないから帰らせてもらう。」と言って、その場を立ち去ろうとした。そこで、Lらは、入口の前に立って、「ちょっと待て。そこへ座れ。」と言って被告人の肩を押さえてその場に座らせた。被告人は、その場から知人のところへ電話をかけ、「警察官が帰らせてくれないので、弁護士に電話してくれ。」等と話した。その後、被告人は、Lらに警察署に行くように促され、応援に来たJ、O巡査(以下、Oという)とともに右一〇〇一号室を出て、マンション前の歩道に至った。

(四) 被告人は同所で警察官からパトカーに乗るよう言われたが、これを拒否した。そこで、Jは、被告人の身元を確認するために、所持品を見せるよう要求したが拒絶され、承諾を得て胸ポケットを触ったところ、注射器のようなものが入っており、「ポンプちがうか。」と聞くと、被告人は「判子や。」と答えて中身を見せなかった。

(五) J、Lらは、被告人に対し、住居侵入事件のみならず覚せい剤取締法違反の疑いも抱き、警察への任意同行に応じるよう説得を続けたが、被告人はこれを拒否した。その後、被告人は、付近の自動販売機にジュースを買いに行ったが、その際も警察官は被告人の両側を取り囲み、被告人が警察官を振りほどくために車道へ出ようとすると、Oが車道から歩道に被告人を押し戻し、被告人が東の方向に歩きだすと、Lが肩に手をかけ、被告人がその場に転ぶとJが「保護しよか。」と言い、被告人が急に車道のほうに走りだすとMが腰に抱きついて被告人を制止して被告人の逃走を防ぐなどしたため、被告人は現場から立去ることができない状況にあった。被告人は無理やり警察官からパトカーに乗せられないよう、自ら街路樹にしがみつき、通行人に向かって「無理やり警察に連れて行かれようとしている。新聞社に連絡してくれ。」などと言ったりしていた。その後、更に警察官二名がパトカーで応援にかけつけた。

(六) ついで、Jが「身元わかる物ないか。」と更に質問すると、被告人は「免許証やったらええんか。」と言い、自ら街路樹を離れ、運転免許証を取り出してJに渡した。運転免許証により被告人が「甲」であることが判明したが、被告人が「自分は○○○○○○だ。」と言うので、Oが、「○○○○○○」で免許照会したところ、該当者なしと回答され、「甲」で再度照会すると、覚せい剤取締法違反で逮捕状が発付され、指名手配されていることが判明した。

なお、被告人は、警察署に行くまで免許証は見せなかった旨供述するが、L、Jは、公判で本件路上で被告人から免許証を見せてもらった旨供述しており、被告人が「○○○」と名乗り、免許照会を再度した経緯についてのL、Jの供述は、概ね一致し、かつその経緯につき具体的かつ詳細なものであり、後に作出されたものとは考え難く、その信用性は高い。

(七) 被告人は、その後も自分は「○○○○○○」であると言い張っていたため、警察官はその場で逮捕状の緊急執行は行わず、同日午前七時ころ、被告人は、警察官に周りを取り囲まれて、パトカーに乗車させられ、西警察署に行った。

(八) 同日午前七時五〇分、西警察署において、被告人は、判示第一の罪についての逮捕状の緊急執行により逮捕され、身柄を旭警察署に移された。その後、警察官は被告人に尿の任意提出を求めたところ、被告人はこれを拒否したため、同月二六日に、警察官はいわゆる強制採尿令状(捜索差押令状)の発付を得て、これを被告人に示したところ、被告人は尿を提出したため、警察官はこれを差押えた。そして、鑑定の結果、尿中よりフェニルメチルアミノプロパンが検出された。

2  そこで、右事実を前提にして、警察官の本件証拠収集手続に違法があったか否かについて検討する。

本件において、警察官は、被告人が任意同行を当初より明確に拒絶していたにも関わらず、当初は四人で、最後は応援の警察官も加わって、被告人が現場から逃げようとすると、被告人の腰に抱きついて制止するなどして約二時間もの長時間事実上被告人の身柄を拘束し、最後は被告人の周りを囲んで半強制的にパトカーに入れたもので、右行為は、任意同行の限界を越えた違法なものであると言わざるをえない。

3  そこで、本件採取にかかる尿の鑑定書等が違法収集証拠として証拠能力が否定されるべきか否かについて検討する。

前記のとおり、本件警察官の被告人に対する同行行為には違法な点があり、右違法行為と本件採尿との間に一般的な条件関係が存することは否定できないが、他方、本件経緯に照らすと、本件当時、警察官が被告人が現場から立去るのを制止する必要性は高かったこと、本件は、警察官が当初より被告人に対し、覚せい剤の嫌疑を抱き、採尿目的で任意同行しようとしたものではなく、警察官に令状主義を潜脱する意図は見られないこと、任意同行の際に、警察官より被告人に過度の暴行があったとは認められないこと、任意同行を求める途中で、被告人の提出した運転免許証の免許照会により、被告人に覚せい剤取締法違反の逮捕状が出ていることが判明し、その後は、逮捕状の執行のため被告人の身柄確保の必要性が更に高まったこと、被告人は逮捕後も尿の任意提出を拒んでおり、本件違法行為が被告人の採尿に関する意思決定に大きな影響を与えたものとはみられないこと、本件採尿自体は裁判官の発付した令状に基づき差押えられたものであり、これ自体に違法な点はないこと等を考慮すれば、右の違法は必ずしも重大であるとは言えず、右手続によって得られた証拠物等を被告人の罪証に供することが、違法な捜査の抑制の見地から相当でないとは認められない。

よって、この点に関する弁護人の主張も採用できない。

(累犯前科)

被告人は、一(1)昭和五九年九月一一日大阪地方裁判所堺支部で覚せい剤取締法違反及び業務上過失傷害の罪により懲役二年六月に処せられ、(2)昭和六〇年五月一日大阪地方裁判所において、覚せい剤取締法違反の罪により懲役八月に処せられ、右(1)について昭和六二年五月七日、右(2)について昭和六三年一月七日それぞれその刑の執行を受け終わり、二その後犯した覚せい剤取締法違反罪により、昭和六三年九月二二日神戸地方裁判所尼崎支部において、懲役一年二月に処せられ、平成元年一一月一日その刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は検察事務官作成の前科調書及び昭和六三年九月二二日付判決書謄本によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一及び第三の各所為は、いずれも覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条に、判示第二の所為は、刑法六〇条、二三五条にそれぞれ該当するところ、前記の前科があるので同法五九条、五六条一項、五七条により判示各罪の刑についてそれぞれ三犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役四年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中五〇〇日を右刑に算入し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、覚せい剤の自己使用二件と、前刑の服役中刑務所で一緒だった三名と共謀し、うち一名が運転手として出入りするスーパーマーケットの特売終了日を狙って、レンタカーを用意したうえ、早朝に同店事務所に侵入して現金約二六〇〇万余りが入った金庫二台を盗み出し、金庫を解体して現金を山分けした窃盗の事案である。右窃盗は、犯行態様が極めて計画的、職業犯的であるうえ被害金額が多額であり、しかも被告人らから被害会社に対し被害弁償はなされておらず、被告人の右犯行における役割も決して小さくはない。また、被告人は、前刑(覚せい剤)出所後わずか三か月あまり後に一件、更にその四か月あまり後に一件と覚せい剤の使用を重ねており、同人にはこれまでに麻薬、覚せい剤の前科が多数存することを考えると、薬物に対する強度の常習性が認められ、以上より、被告人の刑責は重いと言わざるをえない。

しかし、被告人は公判廷において本件各犯行を反省し、今後の更生に意欲を見せていることなども考慮し、主文のとおり量刑したものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村秀作 裁判官 横田信之 裁判官 村越一浩)

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